映画ベスト100
何かをランキングにするのが好きだ。
と言っても国の面積ランキングみたいな教科書に乗ってるような事実に基づいたランキングではなくて、もっと主観によるもの。
好きな食べ物、だとか
好きな街、だとか。
曖昧な自己が可視化されるのが気持ちいいのだ。
私は映画鑑賞が趣味である。
趣味と言っても他人より少し映画を観ているぐらいのものだが。
でも映画を愛しているということは胸を張って言える。
いい映画を観て、ガンガンに脳が揺さぶられ、映画館を出るとまるで世界が一変したかのように見える、あの圧倒的体験は映画鑑賞以外ではなかなか得られない。
映画ベスト100というものがある。
蓮實重彦ベスト141みたいに様々な映画評論家や映画監督など映画を愛している人たちが、自分の好きな作品をたくさんリストアップしたものである。
随分前から自分の映画ベスト100を作りたいと思っていた。
しかしいかんせんめんどくさい。
まだまだ初心者だし、
そんなに鑑賞数も多くないしな、とずっと言い訳をしていた。
でも最近、人生ベスト級の作品との出会いが相次いだおかげでとうとう自分のベスト100の作成に取りかかることができた。
蔡明亮や侯孝賢に感謝。
僕が映画を語るなんてのはおこがましい話で、
まだまだ観なきゃいけない作品は死ぬほどあるのだが、
やっぱランキング作成は楽しかったので公開。
とりあえずベスト10までを簡単に紹介。
1.Claude Lanzmann 『SHOAH』
人生で最も強烈な映画体験
早稲田松竹での真冬のオールナイトで鑑賞した。内容もさることながら、脳がオーバーヒートしながらも朝まで完走した自らの身体的記憶をもってして、人生で最も強烈な映画体験である。
鑑賞される際は1部2部と3部4部の2回に分けた方がちょうどいいはず。じゃないと脳がオーバーヒートしちゃうから。
- 鵜飼哲,高橋哲哉『『ショアー』の衝撃』(1995,未来社)
- プリーモ・レーヴィ『アウシュヴィッツは終わらない』(1980,朝日選書)
- ジョルジョ・アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの―アルシーヴと証人』(2001,月曜社)
等を読むとさらに理解が深まると思う。
2.Theo Angelopoulos『旅芸人の記録』
映画を観るとはどういうことかを教えてくれた
1939年のナチスドイツ支配下時代から終戦、内戦勃発、1952年の内戦の終結までの13年間のギリシャ史を、ある旅芸人の一座の視点から描く一大叙事詩。旅芸人という、言うなれば被差別層の集団から、ギリシャ全体の問題を鮮やかに切り取る。
超絶技巧の人間業ではない長回しの数々など、アンゲロプロスの映画技術に圧倒されっぱなし。
映画を観ることとはどういうことなのかを、僕はこの作品で教えてもらった。
アンゲロプロスは時間芸術としての映画を最も豊かに表現できる代表的な監督であると思う。20世紀三部作を撮り上げる前に交通事故によって亡くなってしまったことが本当に悔やまれる。
しかし今作の感動から他のアンゲロプロス作品は必ず映画館で観ようと決心しているのだが、全っ然かかんない。よってまだ同監督作品は今作のみの鑑賞にとどまっています。
ヨーロッパ史とギリシャ神話についてはそれなりに知識を入れとかないと物語が膨らまないので、ぜひ予習をしてから。
3.賈 樟柯『プラットホーム』
誠実さに号泣
設定や手法、モチーフなどに『旅芸人の記録』の影響が如実に感じられる。というとなんだかこの映画にオリジナリティが欠けているかのように取られるかもしれないが、ジャ・ジャンクーはアンゲロプロスをしっかり消化した上でこの映画を作っているので、たとえ共通項がたくさんあろうとそれらはこの映画の素晴らしさを何ら損なうものではない。
あえてオリジナリティを挙げるとするならば、垂直に上がる男と留まる女、防壁及び障害としての汾陽の城壁とそれを突破するバスの役割、中盤でのスタックしたバスとの対比としての汽車の登場と、そこから増え始める風景カットの鮮烈さ、天安門事件直前の中国の若者たちの雰囲気、等々。まあそこらへんは実際に観ればわかると思います。
一歩引いたロングショットのキャメラによる極めて誠実な長回しが多用される。自分もこのぐらい誠実に生きていこうと、早春の北千住ブルースタジオで決意したことを覚えている。
【予告編】
4.侯 孝賢『悲情城市』
(1989,台湾,160分)
完璧な映画の一つ
完璧な映画の一つ。設定、構成、脚本、構図、カメラワーク、演技、どれを取っても完璧。
どれほど完璧かというと、ファーストシーンが長男の妾の出産から始まるのだが、
ラジオから流れる玉音放送→長男が台湾の民間信仰の神棚的な場所に祈祷→奥の部屋で妾いきむ→出産、赤ちゃんの鳴き声→停電していた電灯が点く→電灯のシェードを取る
というのが滑らかにおこなわれるのだ。これらの要素だけで、終戦直後であること、日本の支配下にあったこと、しかし台湾人としてのアイデンティティは失っていないこと、灯火管制が解除されたこと、台湾が主権を回復したこと、新しい時代がきたこと、そして映画が始まったことといったことがセリフもほとんどなしに明確にかつ押し付けがましくなく提示されるのだ。これだけで満点確定みたいなもんだ。
この完成度が全てのシーン、および映画全体にまでも貫いている。すごすぎ。
あと世界で2番目に好きな俳優、トニー・レオンも出ているのでそれも最高。ちなみに1番は言わずもがなのアラン・ドロン。
5.宮崎 駿『紅の豚』
(1992,日本,91分)
永遠の一本
不調のエンジンを直すためにミラノまで曇天のアドリア海を低空飛行するサボイアS21のショットが一番好き。
6.Ermanno Olmi『聖なる酔っ払いの伝説』
(1988,フランス/イタリア,120分)
完璧な映画二本目
これも完璧な映画。
史上最もかわいいヒロインが出てきます。アンナ・カリーナよりもかわいい。(個人的に好みど真ん中ってだけなのだが。)
7.楊 德昌『牯嶺街少年殺人事件』
(1991,台湾,236分)
大学生活での映画の記憶は全てこれに収束する
大陸反撃の現実味がなくなってきた閉塞感溢れる60年代初頭の台北を舞台にして、若者たちの徒党間抗争を背景に一人の少年の2回の夏を描く。
これを映画館で観てしまったことにより、自分の映画館至上主義がスタート(同時に超金欠状態もスタート)した気がする。
光/影を端緒に劇場という構造(=世界の構造)そのものにまで言及する天才的な演出に脱帽。劇場で観なければいけない映画とはこういう映画のことだと知った。ただ音が大きいだけの映画とかではない。
あと、自分が住みたいのはあの家だし自分が通いたかったのはあの学校だし自分が着たかったのはあの制服だし自分が登下校したかったのはあの道だし自分が飯を食いたいのはあの店だし自分が飲みたかったのはあのグラスに入ったお茶だし。自分の理想は60年代の台北だった。
自分の大学生活における映画を象徴する一本になるんじゃないかと最近強く思う。
8.蔡 明亮『愛情萬歳』
(1994,台湾,118分)
完璧な映画三本目
完璧ですね。台北の3人の男女のすれ違いの物語。
紹介文でさえもこの完璧さの前では意味をなさない。
9.Ermanno Olmi『木靴の樹』
(1978,イタリア,187分)
『旅芸人の記録』とこれで真の映画とは何かを知った
20世紀初頭のイタリアの田舎の小作農4家族の生活を描いたネオレアリスモの傑作。
素朴なのに壮大、神聖で雄大な緊張感の中で、誠実で静謐な視線が導くのは肯定でも否定でもなかった。
初鑑賞時にはこんな映画があったのかと愕然とした。
自分を映画好きにさせてくれた大切な1本。
10.蔡 明亮『河』
(1997,台湾,115分)
完璧な映画四本目
最も完璧な映画の一つと言っていい。映画にしかできないことを見事にやり遂げている。
すごいですよこれは。
11位以下は表にまとめたのでご覧ください。
このリストはこれからどんどん変わっていくけど
とりあえず今日までの一番好きな映画たち。
一つ一つの映画についてももっと詳しく書いていけたらいいな。
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